結果、非常停止ボタンが押され、電車は一時停止。この騒動を目撃した乗客がXに投稿した動画は瞬く間に拡散され、「電車止まってすごい迷惑…」というコメントとともに多くの議論を呼んだ。
危機管理コンサルタントの平塚俊樹氏は、こうした高齢者のマナー問題について次のように指摘する。
「まず前提として理解すべきは、日本は世界でも類を見ない速度で高齢化が進んでいるということです。総務省の最新統計(2025年9月)によれば、65歳以上の高齢者は3,619万人、総人口に占める割合は29.4%と過去最高を更新しました。つまり約3人に1人が高齢者という社会になっているんです」
この数字が意味するのは、単に高齢者が増えたというだけではない。
「かつて『常識』『当たり前』とされていた社会のルールやマナーが、世代間で大きくズレてきているということです。例えば、携帯電話での通話マナー。今の70代、80代の方々が社会の中核にいた時代には、そもそも携帯電話自体が存在しなかった。彼らにとって『電話』とは固定電話であり、どこでも自由にかけられるものではなかったんです」
平塚氏が続ける。
「『電車内で通話禁止』というルールも、せいぜいここ20?30年の話。加齢による聴力の低下でそもそもアナウンスが聞こえていない可能性もありますし、自分の声が大きくなっていることにもまるで気がついていない。心のどこかに『急ぎの電話なんだから仕方ないだろう』という意識があったのかもしれませんが、ルールはルールです」
さらに気になるのが注意への過剰すぎる反応だ。
「これは非常に重要なポイントなんですが高齢者の多くは、長い人生の中で『目上の存在』として敬われてきた経験があります。特に戦後の高度経済成長期を支えてきた世代は、『自分たちが日本を作ってきた』という自負も強い。そんな彼らが、見ず知らずの他人から注意されるというのは、プライドを大きく傷つけられる体験なんでしょう。だから素直に失敗を受け入れられない。そもそも年齢を重ねると人は頑固になるものですしね」
さらに、認知機能の変化も影響しているという。
「加齢に伴い、感情のコントロールが難しくなるケースは少なくありません。些細なことで沸点が上がり、怒りが爆発してしまう。これは脳の前頭葉の機能低下によるもので、本人の意志だけでは制御しきれない側面もあります」
今回お話を聞いた男性は、通話禁止のプレートが配置された珈琲店で堂々電話する高齢者を見かけたと話す。
ーもしもーし!
「テーブルに禁止の張り紙があるにも関わらず、何事もなかったかのように電話をしている姿を日常的に見かけます。若い店員さんが困り果ててる姿も何度も目にしました」
「禁止ですので…」の優しい問いかけは彼らには届かない。
「時給1,000円程度のアルバイトに、激昂した高齢者への対応を求めるのは酷ですよね。下手に注意すれば逆ギレされ、トラブルがエスカレートする可能性もあるんだし。そんな感じでみていたらある人物が注意を始めたんですが、それもまた迷惑の上塗りって感じで…。自分もいつかこうなってしまうと思うと怖くてなりません」
【取材協力】危機コンサルタント|平塚俊樹 【聞き手・文・編集】森田曜 PHOTO:Getty Images 【出典】総務省「統計からみた我が国の高齢者」(2025年9月)
FORZA STYLE11/12
