WBC世界バンタム級2位井上拓真(29=大橋)が3度目の世界王座獲得に成功した。同級1位那須川天心(27=帝拳)と同級王座決定戦に臨み、12回を戦い3-0で判定勝ち。無敗の格闘家でボクシングを含めて53戦全勝だった那須川にキャリア初の黒星をつけた。24年10月、堤聖也(角海老宝石)に判定負けを喫し王座陥落して以来、約1年1カ月ぶりの再起戦で再び世界王者に返り咲いた。
アマ時代に勝利していた堤に敗れ、当時のWBC世界同級王者中谷潤人(M・T)との統一戦も実現できなかった。引退か現役続行か-。1カ月以上も熟考し、最終的に現役を続けると決断した。父真吾トレーナー(54)、兄尚弥(32)とも話しながら完全燃焼への気持ちが高ぶり「ここで辞めるのだったら、もう1度と。やり切れたかといえば、やり切れていない。辞めていたら悔いが残る。悔いなくやっていこうと思った」と振り返る。
実は堤戦で手首の靱帯(じんたい)を切っていたことが判明。治療に専念し25年前半の復帰戦は見送っていた。今秋のIBF世界同級王座決定戦への出場を想定し、調整を続けてきた7月、所属ジムの大橋秀行会長(60)を通じて那須川とのWBC世界同級王座決定戦のオファーが伝えられた。すると井上は「自分も盛り上がるカードをやりたかった。天心選手はボクシングにきてから急成長してのぼりつめてきた。申し分ない相手」と即決。尚弥からも「絶対に勝つからやらせてほしい」という“援護射撃”もあって注目カードが実現した。
10月上旬、小田原合宿で下半身を中心とした強化合宿を敢行した。22年11月の軽井沢合宿以来、約3年ぶりの野外合宿で那須川戦のスイッチを入れた。「父との戦い」と設定し、厳し指導で定評のある真吾トレーナーに与えられたメニューに食らいついた。「ボクシングに対する気持ちが届いていなかっただけ。ダメージとか技術とかで負けたとは思っていない。ここで辞めたら後悔するというのが1番。後悔せずに長くないボクシング人生をやり切りたい」。キャリア無敗の那須川に初黒星をつけるというモチベーションも大きかった。真吾トレーナーは「初めて自分と同じ温度、熱量で調整できた」と手応えを示していた。
井上は「気持ちとしては世界王者に返り咲くというよりは天心選手にしっかり勝って初黒星をつける。そこが自分の1番のモチベーションであり、結果を出してファンの方に恩返ししたい」と那須川戦のリングに向かっていた。「勝てば『井上拓真が戻ってきた』になる」。WBC暫定、WBA正規に続き、WBC正規と3度目の世界王座戴冠。25年最大の注目を集めた那須川との日本人対決を制し、井上は完全復活を証明した。
◆井上拓真(いのうえ・たくま)1995年(平7)12月26日、神奈川・座間市生まれ。父真吾氏と兄尚弥の影響で4歳からボクシングを始める。高校2冠後、13年12月にプロデビューし、福原辰弥に判定勝利。15年7月に東洋太平洋スーパーフライ級王座を獲得。18年12月にWBC世界バンタム級暫定王座奪取も、19年11月に正規王者ウバーリ(フランス)に敗れて王座陥落。21年1月に東洋太平洋バンタム級王座、22年6月にWBOアジア・パシフィック・スーパーバンタム級王座&日本同級王座を獲得。23年4月、WBA世界バンタム級王座を獲得し2度防衛。身長163センチの右ボクサーファイター。
