高市早苗首相の台湾有事を巡る7日の国会答弁を契機に、中国の薛剣大阪総領事が「首を切ってやる」などとSNSに投稿。日本側の厳重抗議に続き、中国が自国民の日本への渡航自粛を呼びかけるなど、日中関係が一気に暗転している。中国事情に詳しい李昊(りこう)東京大学大学院准教授は「日中関係は、少なくとも数カ月間は停滞する。日本も引き下がれない。カギは高市政権が長期政権になれるかどうかだろう」と語る。
高市首相の答弁も従来の政府答弁を踏み越えている点で「軽率」のそしりは免れないが、薛剣氏の暴言ぶりもひどすぎた。同氏を知る日米などの外交関係者は「愛国無罪だと考えて戦狼外交をやっている」「駐日大使への出世を狙ったスタンドプレー」などの声が上がる。事実、SNSへの投稿は削除された。李昊氏も「本人の意思か、北京の指示かはわからないが、さすがにバツが悪かったのだろう」と語る。
ただ、日本で与野党が一致して薛剣氏の発言への反発が広がると、中国側の対応も急激にエスカレートした。李氏は「ペルソナノングラータの話まで出始めて、中国側の怒りに火がついた。もともと、台湾問題で一線を越え、火をつけたのは日本側なのに、なぜそこまで批判されるのか、という思いがあったのだろう」と指摘する。米政府元当局者も「台湾問題は、それだけ中国にとって敏感な問題なのだとアピールする必要があったのだろう」と語る。
中国は自国民の日本への渡航自粛を呼びかけたほか、中国海警局の船舶4隻が16日午前、尖閣諸島の日本領海に侵入。中国教育局も同日、日本への留学を慎重に検討するよう、呼びかけた。李氏は「これだけ整然と統一した動きをしている以上、習近平国家主席にまで話が上がり、対抗措置についての指示を受けたと考えるべきだ」と語る。
中国人の日本への観光客はどのくらい減少するのか。2024年の訪日外国人観光客数約3686万人のうち、中国人は約698万人で、首位の韓国人の約881万人に次いで多かった。中国人観光客は順調に増えていて、今年上半期の外国人消費全体の約20%(5160億円)を占めている。李氏は「個人の旅行客は別としても、団体観光客は大きく落ち込むだろう」と語る。中国政府と関係がある旅行社も多いほか、無理に日本観光を企画すれば、中国国内のSNSなどで袋だたきに遭う可能性が高いからだという。過去には中国と韓国が、THHAD(高高度ミサイル防衛システム)の韓国配備を巡って対立。韓国を訪れる中国人観光客は2016年には約807万人だったが、2年後の18年には約479万人にまで急減した。
李氏は「進んでいた日本産水産物の中国への輸出制限緩和措置も、当面は進展しないだろう。学術交流だけでなく、中央・地方関係なく、政治交流も当面はストップするとみた方が良い」と話す。
