11/18(火) 15:43
前略
そんななか、本誌連載中の東出昌大がクマについて寄稿してくれた。猟師免許を持ち、日常的に山に出入りする東出昌大は現在のクマ報道をどう見るのか。
(以下、東出昌大氏による寄稿)。
クマ報道が凄い。我が家にテレビはないが、そんな私でも連日のようにクマにまつわるニュースが飛び込んでくる。週刊誌などからも「クマについて取材させて下さい」と、今年だけで8件もご依頼を頂戴した。
しかし、報道が過熱しすぎだと思うし、メディアは「危ない!」「のリスク!」などの言葉を拾い歩きたいという前提があるから、私の実感が伴う「そんな危ないもんじゃないですよ」というお答えは編集部にとって快く思われないことも分かっている。だからお断りをする。
日常的に山に出入りしている身からすれば、クマには滅多に出合わない。環境省が発表しているクマによる人身事故の件数を表示したHPを見れば、一昨年が6人、今年が5人(令和7年8月末時点)と亡者の欄に数字はあるが、令和3年5人、平成28年4人、平成22年4人と、以前からお亡くなりになる方は一定数いた。しかしこの数年のクマ騒ぎは、メディアが「クマは数字が取れる!」と気付いたからここまで過熱しているのだろうと思う。
例年、交通事故による亡者数は2000人超え。自者数は2万人超え。しかし、メディアがその数字を大声で喧伝しても、「でも車便利だからしょうがなくね」「社会に疲れちゃうのも仕方なくね」と大衆は諦観交じりの無関心を決め込む為、数字は取れない。しかしクマは、「噛まれたら痛そう」「人間が喰われて血みどろになるってヤバい」など、残忍な恐怖を想像する作業がはかどるため、の実感の希薄な現代人には刺さるのだろう。
クマ騒ぎの源泉は「クマが危険」という話ではなく、何某かを仮想敵とし、吊し上げる対象を見つけたいという欲求を抱えた現代日本人の心ありようなのではなかろうか。
しかし、一方で「クマが人目につきやすくなった原因」も2点あると考える。山の木の実の不作と、猟師の高齢化だ。堅果類の不作は聞き馴染みのある方もいるかと思うから説明しないが、猟師の高齢化がどのようにクマの出没に影響しているのか。
環境省発表の狩猟免許所持者は、70%が60代以上となっている。うちの猟友会だと60代はまだ若手、70代80代の猟師が多い。昔は山を歩いたオッチャンたちも、今はあまり歩けないから車に乗って道路脇に突っ立ている鹿を撃つ。いわゆる「流し猟」が主流派だ。また、罠猟でも見回りが楽なように、道路から見える範囲に罠を掛ける。
トドメを刺されてぶっ倒れた鹿は60㎏以上の個体もザラだが、もちろんお爺ちゃん一人じゃ軽トラの荷台に載せられない。だから体を道路脇に放置する。法律では車内から鉄砲だけをヌッと出して撃つのは違法だし、獲った獲物を遺棄するのも違法だ。
だが、猟師のオッチャンたちと仲良くなるとよく分かる。もちろん全員ではないが、多くの猟師が暗黙の了解でこれらをしている。じゃないと駆除が追っつかない現実もあるのだ。
クマがこれ以上迫害されない為に、捨てられる鹿の生命を減らす為に、ちゃんと獲物を持って帰れる若い猟師が増えてほしい。
私はしてばっかの日々だが、この記事で一人でも多くの猟師が増え、その方の人生と山の生き物の生命が良い方向に向いてくれたらなぁ、と。誰が為にか書く。
